以出齋 | Itshoh Tse

禮以行之 孫以出之 信以成之

【韻鏡考】第七章 字音の成立

【本文】

    第七章 字音の成立

【文字の創製】縱ひ文字國なる支那なりとも、未だ文字無かりし以前は、言語のみにて、意志を通じたりしなり。而して漸く人智進み、世務多端となるに隨ひ、之を記載する必要を生ずるに至り、始めて文字を製して、毎語に一字を當てられたるなり。是等製字上の巨細の推測は姑らく他日に讓り、こゝには唯、其の大要を撮記せんとす。

蓋し、未開時代に於いて、記載の必要の最も初に起こりしは人員物數にして、指呼する【數字】に隨ひて、物に附したる爪痕など、即て數字となり、物數を記せる傍に其の何物の數【象形】なるかを分たんが爲に、其の略形を畫き添へたるが、象形文字の起原となり、上下左右を指示する必要に迫られて、自然に指事文字の端緒を發したりしならん。而して【指事】是等象形、指事の單文は、一原語に一文を當れられ、其の原語の音のまゝに呼ばれたるが、即て其の字の音とはなれるなり。爾後人智の進むにつれ、有形無形に拘らず、所有る言語の記載を要するに至り、一語の義に應じて、二文以上の其の音を捨て、其の【會意】意を取りて、之に當つること起る。即ち會意字にして、是亦呼ぶに原語の音を以てす。以上象形、指事、會意の三類は、毎語、一字を當て、毎字、孤立の狀態に製作せらるゝが故に、殆ど他に聯絡無くして記憶せざる可からず。而も象形、指事の如き、一見直ちに